2024年9月、米ラスベガスで開催された「NetApp INSIGHT 2024」では、AI時代を見据えたNetAppのデータプラットフォーム戦略やAI活用のための新しいソリューションが披露されました。その中でも特に注目していただきたいのが、エンタープライズ向けに新たに展開されるブロックストレージ(SANストレージ)の新製品です。ファイルストレージで圧倒的な存在感を放つNetAppが、群雄割拠するブロックストレージ市場に「殴り込み」をかけた形とも言えます。そこで今回は、NetAppが新たなSANストレージ製品で目指す地平を、11月6日開催のウェビナー「INSIGHT 2024 新製品アップデート」の内容を加味してお伝えします。
1992年にストレージOS「ONTAP(オンタップ)」を開発し、ファイルサーバー向けストレージのパイオニアとして市場をリードしてきたNetApp。2002年には業界初となる、ファイルストレージ(NAS)とブロックストレージ(SAN)を統合したSAN/NAS統合アプライアンスを発表、2012年にこのSAN/NAS統合システムをスケールアウト可能にして、データ爆発とも呼ばれるデータ量の増大に柔軟に即応できるインフラ環境を実現しました。
そして、いよいよ本格化するAI時代に対応すべくNetAppがいま取り組んでいるのが「インテリジェントデータインフラストラクチャー」の実現です。当社チーフ テクノロジー エヴァンジェリストの神原豊彦はこう説明します。
「AIを積極的に活用して大きな収益を得ている企業が大きな注目を集めていますが、そうしたリーディング企業に話を聞くと、成功のポイントは3つあります。組織をまたがるデータを統合するための戦略、データの重要性に対する従業員の理解、モダンなデータインフラの整備の3つです」
この組織・文化・技術という3つのポイントに共通するのがデータです。
「データに関する取り組みを推進することで『AIカンパニー』が実現できます。そしてAIカンパニーを実現するためのデータストレージのあるべき姿こそ、NetAppが提唱するインテリジェントデータインフラストラクチャーです」と神原は強調します。
AIカンパニー実現に向けたステップは3つあります。AIの実験プロジェクトの実施(ステップ1)、データサイロを解消するデータハブの構築(ステップ2)、インテリジェントなデータインフラの整備(ステップ3)です。しかし、現状は、ステップ1からステップ2までに大きなギャップがあり、そのギャップをいかに乗り越えていくかが重要になっています。
「ギャップを乗り越えたいというお客様から、NetAppにはさまざまな要望が寄せられています。その要望に応えるべく、NetAppはインテリジェントデータインフラストラクチャーを実現するポートフォリオを刷新しました。その中で特に重要な製品に位置づけられるのが、ブロックストレージの新製品です」(神原氏)
NetAppに寄せられるデータストレージへの要求は大きく5つに分けられます。
ブロックストレージの新製品は、まさにこうしたユーザーのニーズを満たした製品となります。NetAppではこれまで、SAN専用オールフラッシュストレージ製品として「NetApp All Flash SAN Array(ASA)」シリーズを展開してきました。新たに展開されるASAシリーズは、ハイパフォーマンスモデルの「ASA A1K」「ASA A90」「ASA A70」のAシリーズ3モデルです。当社APAC プリンシパルアーキテクト 竹谷修一はこう説明します。
「SANストレージで利用されるブロックアクセスは30年以上の長い歴史のある技術ですが、業界は常にあるジレンマに直面していました。それは、SANストレージ製品を開発するにあたって相反するシンプル・利用しやすさと機能性・拡張性をいかに両立するかです。NetAppはこのジレンマを打ち破ることを目指しました」
こうして誕生した新製品のキーワードは、シンプル、パワフル、アフォーダブル(手ごろな価格)の3つです。その内容は次の通りです。
1.シンプル
まず、誰でも簡単に導入、設定、管理、拡張ができるシンプルな操作性を備えました。
「これまでSANストレージは、LUNの設定やキャパシティプランニングなど専門的な知識とノウハウが必要でした。新しいASAシリーズは、LUNの名前、数、容量、OS、サーバーのマッピング情報を入力するだけでセットアップが完了します。SANストレージの知識が少ない担当者でもストレージの利用を簡単に始めることができます」(竹谷氏)
2.パワフル
次に、パワフルについては、従来から提供してきた性能や信頼性の高さを受け継ぎながら、あらたにインテリジェントなデータ管理を可能にしています。
「A70では約2倍(A400から109%向上)の性能向上を実現し、A1Kでは12ノードクラスタ構成で1200万IOPS、312Gbpsスループットを実現しています。レイテンシはすべて1ミリ秒未満を実現しています。信頼性の点でも、データ保護機能として、SnapMirrorアクティブ同期を用いることで、RPO(目標復旧時点)/RTO(目標復旧時間)ゼロのBCP構成を実現することができます」(竹谷氏)
3.アフォーダブル
アフォーダブルについては、製品価格をこれまでより25〜50%下げることで、顧客のROI向上に貢献できるようにしています。もちろん、手厚いサポートや定評のある保証プログラムは引き続き利用可能です。
「従来から定評のあった、ランサムウェアリカバリ保証(ランサムウェア被害にあった場合に復旧費用をNetAppが負担)やシックスナイン データ可用性保証(99.9999%の可用性を実現することをNetAppが保証)も利用できます」(竹谷氏)
SANストレージ市場は、さまざまなベンダーが製品を展開し、群雄割拠の状況です。ただ、AI時代に入りデータの重要性が増す中で、よりシンプルかつパワフルで導入しやすいストレージが求められるようになってきています。刷新されたASA Aシリーズは、こうした新しい時代をリードするフラグシップ製品となるものです。
なお、NetAppは、ASA Aシリーズ以外にもさまざまなストレージ製品を提供しています。SANストレージとしては、ASA Aシリーズよりも導入しやすい価格で提供するASA Cシリーズがあります。また、SAN/NASの両方に対応したユニファイドストレージとしては、オールフラッシュのハイパフォーマンスモデルAFF(All Flash FAS) Aシリーズや、容量重視型モデルAFF Cシリーズがあります。
こうしたエンタープライズ向けストレージも今後、新たな新製品が次々と投入される予定です。すでに今回ASA Aシリーズと同時に、フラッシュとHDDを組み合わせたハイブリッドフラッシュモデルの新製品FASシリーズの2モデルの提供も開始しました。
「FASシリーズは、ハイエンドモデルのFAS90と、ミッドレンジモデルのFAS70を新たに提供します。従来のモデルと比較して性能が大幅に向上し、既存システムから無停止での移行も可能です。容量密度も大きく向上し、2UコントローラーがHAペアで2つ、つまり4Uのサイズで最大物理容量が14.7ペタバイトまで対応可能になりました」(竹谷氏)
ストレージポートフォリオの刷新だけでなく、ONTAP自身も進化しています。AI時代を見据えたONTAPの次世代アーキテクチャの方向性として、2つのビジョンが発表されています。
「1つは、Disaggregated Storage Architectureという新たなストレージ構成です。ディスクエンクロージャーとコントローラーを高速なネットワークで結ぶことで高いレベルの分散ストレージを実現します。もう1つは、AI時代に適したデータ処理を行うためのNetApp AI Data Engineです。AIワークフローにはデータの取り扱いなどセキュリティなどに課題があります。これを、ポリシーに基づく自動分類やコピーを必要としないデータ管理、学習のための差分管理と再学習の仕組みなどで解決していきます」(竹谷氏)
NetAppは近年、ストレージ専業ベンダーの強みを生かしたAIソリューションにも注力しています。その狙いを、ソリューションアーキテクト 井上 耕平はこう話します。
「AIの社会実装が急加速する中でいま注目されているのが、社内に眠るデータの活用です。生成AIの利活用においても、社内データをどのように活用できるかがビジネスの競争力に直結する時代が訪れます。お客様のストレージに保存されているデータをAIとつなぐことでお客様のAI利活用を加速させる。AIにデータを与えるのではなくお客様のデータにAIを導く『Bringing AI to your Data』がNetAppの使命です」
これを実現するために、NetAppではAIソリューションを提供しており、近年大幅にアップデートされたものとしては、「NVIDIA DGX SuperPOD with NetApp」と「NetApp AIPod」の2つがあります。
前者は、AI基盤開発などに利用できるNVIDIAのAIデータセンターインフラをNetAppと組み合わせて提供するソリューションです。
「社内に眠るデータをどのようにAIに導くかは、基盤モデル開発においても重要となりますが、当ソリューションによってさまざまなストレージに格納されたデータ収集・活用をサポートします」(井上氏)
一方、後者のNetApp AIPodは、NetAppとNVIDIAが共同開発したAI専用のプラットフォームです。オンプレミス環境での生成AIアプリケーションの開発などをサポートします。
「Lenovoハードウェアを用いたNetApp AIPod with Lenovo for NVIDIA OVXの一般提供を開始し、これに伴い販促資料や各種ツール、ドキュメントが公開されています。オンプレミスでの生成AI推論基盤などの取り組みを支援していきます」(井上氏)
NetAppでは、上述してきたような製品のさらなる進化を継続していくことはもちろん、近年では製品導入を検討するさまざまな企業に向けた支援体制も拡充しています。その1つが、東京オフィスに発表した「Intelligent Data Infrastructure Experience Center」です。
同センターでは、NetAppのSEが中心となり、新製品や新技術をわかりやすく伝え理解を深めていただくためのハンズオンや座学を交えたワークショップを実施するほか、米国本社など国外のエキスパートとオンラインで会話しノウハウや知見を得られるディスカッション、今回発表した新製品を実際に触って検証できるラボ環境を提供しています。すでに多くのお客様にご利用いただき、高い評価をいただいています。
1992年の創業以来、NetAppは顧客ニーズを先取りして新しい技術を提供し、進化を続けてきました。AIや生成AIの社会実装が広まり、データ蓄積・処理を担うストレージの重要性が高まる中、AI時代に向けたデータプラットフォームにより、これからも顧客を支援していきます。
業務執行役員 マーケティング本部長
日本ヒューレット・パッカード、日本マイクロソフト、F5ネットワークスジャパンなどでマーケティング業務に従事。2017年にNetApp入社。2024年2月より現職。