ウェビナーレポート
AI・クラウド・データ基盤を活用した次世代の半導体製造・設計環境の構築に向けた最新トレンドと、実践的なソリューションをご紹介します。 2025年8月27日に株式会社日刊工業新聞社とネットアップ合同会社との共催で開催されたウェビナー『データで攻める!~ 半導体製造を加速するデータ基盤 ~』の講演内容をサマリーでまとめます。
ネットアップ合同会社エンタープライズ統括本部 製造・サービス営業本部 クライアントエグゼクティブ 金田一 浩平
NetAppは、創業から30年以上にわたり、シリコンバレーに本社を構えるデータストレージ専業ベンダーとして、業界を牽引してきました。日本ではNASからスタートし、ユニファイドストレージやクラウド連携を可能にする「データファブリック」など、革新的なコンセプトをいち早く市場に提案。今では、AWS、Azure、Google Cloudといった世界の主要クラウドベンダーに技術提供を行う、唯一のストレージベンダーとしての地位を確立しています。 こうした取り組みを通じて、NetAppはデータストレージの世界に新たな価値を提供してきました。そして今、AIの時代を迎え、私たちは「インテリジェント・データ・インフラストラクチャー」という新たなビジョンを掲げています。これは、AIとデータを融合させ、よりスマートで柔軟なデータ基盤を実現するという挑戦です。
NetAppはこれからも、データの力を最大限に活かすソリューションを提供し続け、企業のイノベーションを支えるパートナーとして進化を続けてまいります。
合同会社アミコ・コンサルティング代表 KPMG ジャパン アドバイザー
友安 昌幸 氏
半導体業界の技術革新とAIの融合による新たな潮流について、友安様の豊富な経験と知見をもとに解説されました。東京エレクトロンでの長年の技術開発、サムスンでの装置技術の探求、そして現在のコンサルティング活動を通じて得られた視点から、次世代の半導体製造とAI活用の本質が語られました。
半導体は“社会の神経網”へ
かつては大型計算機やPCに限られていた半導体は、今やスマートフォン、家電、自動車、医療機器、そしてAIまで、あらゆる分野に浸透。「半導体を使っていない産業は存在しない」と言えるほど、社会の基盤技術となっている。
ムーアの法則は終わっていない、ただ“進化”している
ムーアの法則(トランジスタ数が2年ごとに倍増)は、微細化の限界が指摘される中でも、形を変えて生き続けています。
AIが半導体の進化を牽引
生成AIの登場により、データ生成量は爆発的に増加。AIモデルの学習には膨大な計算が必要であり、これが半導体の需要を加速させています。AIはもはや半導体の“利用者”ではなく、“推進者”として技術革新の中心に位置づけられています。
エネルギー消費という新たな課題
AIの進化に伴い、エネルギー消費が深刻な課題になっています。特に、計算処理よりもメモリとのデータ転送にかかるエネルギーが圧倒的に多いという構造的な問題があります。この課題に対しては、プロセッシング・イン・メモリー(PIM)やシリコンフォトニクスなど、転送距離や方式を根本から見直す技術が注目されています。
注目対策技術:プロセッシング・イン・メモリー(PIM)、シリコンフォトニクス、アドバンスド・パッケージングなど。
設計から製造まで、AIが変える現場
AIは設計工程にも大きな変革をもたらしています。
設計の現場では、Googleの「AlphaChip」が象徴的です。従来数ヶ月かかっていた設計が、AIによって数時間に短縮されました。SynopsysやNVIDIAなども、AIを活用したEDAツールを展開し、設計の精度とスピードを大幅に向上させています。
製造現場でも、歩留まり分析、装置の予知保全、工程の最適化など、AIによるデータ活用が進んでいます。私自身、東京エレクトロン時代に感じていた「データはあるのに活かしきれていない」という課題が、今まさに解決されつつあるのを実感しています。
DXの本質は、試行回数の最大化
AIやデジタル技術を活用することで、短期間により多くの試行錯誤が可能となり、結果として付加価値の創出につながる。これは、単なる技術導入ではなく、企業文化や意思決定の在り方そのものを変える視点です。
講演の最後に、東京大学・松尾教授の言葉を引用し、「DXの本質は、技術革新(R)を高めるだけでなく、試行回数(T)を増やすことにある」と強調した。
Michael Johnson, NetApp
Koolwal Kushal, Cadence
半導体設計の現場は、今まさに大きな転換期を迎えています。AIの進化、クラウドの普及、そして設計環境の複雑化。こうした変化に対応するため、CadenceとNetAppが共同で推進する「マネージドクラウドサービス」は、業界に新たな選択肢を提示しています。
CadenceとNetApp のビデオメッセージ動画はこちらから確認できます。
Cadence OnCloud:3層アーキテクチャで支える設計基盤
Cadence OnCloudは、Cadenceのクラウド製品群を支える統合プラットフォームです。CEOの3か年戦略に基づき、以下の3層構造で設計されています。
この構造により、設計者は必要な環境を迅速に立ち上げ、最適なツールを活用しながら、グローバルに分散したチームと連携できます。
AIエージェントが変えるEDAワークフロー
AIエージェントとは、生成AIを活用し、認識・推論・行動・学習を自律的に行う複数のエージェントが連携する仕組みです。Cadenceでは、これをEDA設計に応用し、以下のような自動化を実現しています。
これにより、従来は時間と労力を要していた設計工程が、より効率的かつ高精度に進められるようになります。
マネージドクラウドサービスの5つの柱
Cadenceのマネージドクラウドサービスは、以下の5つの柱によって差別化されています。
これらにより、設計者は最小限の準備で、即座にプロフェッショナルグレードの環境にアクセス可能となります。
ハイブリッドクラウドの現実的な課題と解決策
設計環境の拡張に伴い、オンプレミスとクラウドの連携は不可避となっています。しかし、データの同期、ジョブのオーケストレーション、セキュリティなど、課題は多岐にわたります。
NetAppのFlexCacheは、こうした課題に対して以下のような解決策を提供します。
これにより、設計者は「リフト&シフト」不要の効率的なクラウド活用が可能になります。
設計の未来はクラウドとAIの融合にあり
CadenceとNetAppのパートナーシップは、クラウドとAIを融合させた新しい設計環境を提供しています。設計者は、複雑な構成やインフラ準備に煩わされることなく、設計そのものに集中できる環境を手に入れることができます。この取り組みは、単なる技術提供ではなく、設計文化の変革を意味します。今後の半導体設計は、クラウドとAIを前提とした新しいスタンダードへと進化していくでしょう。
ネットアップ合同会社 ソリューション技術統括本部 第一技術本部 ソリューションズエンジニア
松田(マッタ)紘典
半導体業界は今、生成AIの台頭とともに急速な成長を遂げています。2024年には6270億ドル規模、2030年には1兆ドル市場へと拡大する見通しの中、設計環境にも柔軟性とスケーラビリティが求められています。こうした変化に対応するための「ハイブリッドEDA環境」の重要性と、それを支えるNetAppの技術について語りました。
急成長と収縮を支えるEDAインフラの条件
半導体業界はサイクル性が強く、成長と収縮を繰り返します。設計環境には、以下のような要件が求められます。
これらを満たすために、NetAppは「ONTAP」を中心としたストレージOSと、AFFシリーズやFASシリーズなどの製品群を提供しています。
NetApp ONTAP FlexGroupと分散処理の最適化
EDA環境では、メタデータ処理の高速化と並列処理が鍵となります。NetApp ONTAPの「FlexGroup」は、複数のFlexVolを束ねて一つのネームスペースとして扱うことで、以下のメリットを実現します。
これにより、設計業務のボトルネックを解消し、スケールアウト型のストレージ環境を構築できます。
データライフサイクル管理とコスト最適化
EDAでは膨大なデータが生成されますが、そのアクセス頻度は時間とともに変化します。NetApp ONTAP FabricPool は、ホット・クール・コールドデータを自動的に階層化し、最適なストレージに配置することでコストを削減します。
透過的なアクセスを維持しながら、ストレージコストを最適化できる点が大きな特徴です。
「セキュリティ」地球上で最も安全なストレージへ
NetAppは「地球上で最も安全なストレージ」を掲げ、以下のような高度なセキュリティ機能を提供しています。
これらの機能は、米国防省レベルの認証を取得しており、設計データの保護において高い信頼性を誇ります。
NetApp ONTAP FlexCacheによるクラウド連携
NetApp ONTAP の「FlexCache」は、オンプレミスとクラウド間のデータ同期を高速かつ効率的に実現するキャッシュ機能です。
これにより、設計環境の柔軟性が飛躍的に向上し、クラウドリソースの活用が現実的な選択肢となります。
NetApp | NVIDIA - 生成AIと企業データの融合
最後に、NetAppソリューションとNVIDIAのNeMo RetrieverおよびNIMマイクロサービスの活用事例が紹介されました。企業内の構造化・非構造化データを生成AIに提供することで、設計プロセスにおける精度向上が実現されています。
この取り組みは、AIによる業務支援の信頼性を高め、EDA設計の競争力を強化するものです。
NetAppのハイブリッドEDA環境
急成長する半導体市場において、柔軟性・スピード・信頼性を兼ね備えた設計基盤を提供します。クラウドとオンプレミスの融合、AIとの連携、そして高度なセキュリティ。これらを実現することで、EDA設計の未来を支えるインフラとして、NetAppは確かな存在感を示しています。
株式会社日刊工業新聞社 取締役 明 豊 氏
ネットアップ合同会社 ソリューション技術統括本部 第一技術本部 部長 坂本 貴弘
ネットアップ合同会社 ソリューション技術統括本部 第一技術本部 ソリューションズエンジニア 松田 紘典
製造業・半導体業界におけるデータ活用、セキュリティ、クラウド戦略について、実務者とメディアの視点からトークセッションを行いました。
NetApp-坂本:
本日は長時間のご視聴、誠にありがとうございました。最後のセッションでは、今日の講演を振り返りながら、日刊工業新聞の明さんをお迎えして対談形式でお届けします。松田も加わって、ざっくばらんにお話しできればと思います。
日刊工業新聞社-明氏:
ありがとうございます。私も新聞社という立場で参加しましたが、非常に多くのヒントを得られました。特に、DXやデータ活用の観点から、半導体業界の動きには大きな可能性を感じています。
データ爆発とエネルギー消費の課題
日刊工業新聞社-明氏:
基調講演で印象的だったのが、生成AIによるデータ爆発と、それに伴う電力消費の増加です。ICTが供給を超える可能性があるという話には驚きました。
NetApp-坂本:
まさにその通りです。NetAppとしても、低消費電力・省スペースの製品開発に力を入れており、Cシリーズなどはエッジ環境に最適です。工場などでは、ハードディスクの常時稼働が課題になっており、フラッシュベースのストレージが求められています。
ハイブリッドクラウドと投資判断
日刊工業新聞社-明氏:
クラウドとオンプレミスの選択は、技術だけでなく投資判断にも関わりますよね。ROIやKPIはどう握っているんですか?
NetApp-坂本:
我々は「クラウドが良い」「オンプレが良い」といった提案ではなく、まずお客様の経営課題を丁寧にヒアリングします。その上で、最適な手段としてハイブリッドクラウドを提案することが多いです。
NetApp-松田:
特にセキュリティは導入のきっかけになりやすいですね。ランサムウェア対策や改ざん防止機能など、経営層からの要望が強く、IT部門に落ちてくるケースが増えています。
日本企業の特性と海外事例の活用
日刊工業新聞社-明氏:
日本企業は慎重な傾向がありますよね。海外事例が導入の後押しになることも?
NetApp-坂本:
はい、実績重視の傾向が強く、米国のEDA業界で確立されたソリューションを紹介すると、導入に前向きになる企業も多いです。
設計者の役割とAIの影響
日刊工業新聞社-明氏:
生成AIが進化する中で、設計者の役割も変わってきているのでは?
NetApp-松田:
その通りです。社内でもAIを活用した業務が進んでおり、設計者はより高度な判断業務にシフトしています。EDAツールにもエージェント型AIが組み込まれ、デバッグなどが自動化されつつあります。
NetApp-坂本:
ただ、データガバナンスやクレンジングの課題もあります。AIに投入するデータの整備は、企業が責任を持って行う必要があります。
DXとAI:経営層の意識変化
日刊工業新聞社-明氏:
松尾先生(東京大学)の話でもありましたが、DXよりもAIの方が経営層にとって直感的に理解しやすいという話がありました。NetAppとしても、AIの民主化をどう見ていますか?
NetApp-坂本:
AIの精度が上がり、正しい回答が得られる機会が増えています。経営層も使いやすさを感じており、ビジネスの場でもAI活用が進んでいます。
NetAppの今後の進化と注目ポイント
日刊工業新聞社-明氏:
今後、NetAppのソリューションで特に注力していくポイントは?
NetApp-松田:
データ爆発に対応する高パフォーマンス・大容量ストレージ、柔軟なインフラ構成、サイバーセキュリティ、AI対応のデータ利活用基盤、そしてFabricPoolによるコスト削減機能です。
NetApp-坂本:
お客様の投資意欲も底堅く、新しいプロジェクトに合わせてインフラの増強が続いています。オンプレミス一辺倒から、ハイブリッドクラウドへの移行も進んでいます。
最後に
NetApp-坂本:
NetAppは「データを重力のように捉えない」ことを提唱しています。つまり、データがサイロ化せず、自由にクラウドやオンプレミスを行き来できる柔軟なインフラこそが、競争力の源泉です。
日刊工業新聞社-明氏:
本日のセッションは、半導体業界だけでなく、製造業全体にとっても非常に示唆に富んだ内容でした。ありがとうございました。
AI・クラウド・データ基盤を活用した次世代半導体設計・製造の最新動向と、実践的なソリューションが紹介されました。基調講演では、半導体業界の進化とAIの役割、エネルギー課題への対応策が示され、技術者だけでなく、経営層や企画担当者にも多くの示唆を与える内容でした。
CadenceとNetAppのセッションでは、ハイブリッドクラウド環境でのEDAワークフロー構築におけるAIエージェントの活用や、FlexCacheによるデータ同期の最適化など、設計者の生産性を飛躍的に高めるソリューションが提示されました。NetAppの技術紹介ではONTAP FlexGroupやFabricPoolによるスケーラブルかつコスト効率の高いストレージ環境、高度なセキュリティ機能、そしてNVIDIAとの協業による生成AI活用事例が紹介され、設計精度と信頼性の向上が強調されました。最後のトークセッションでは、DX・AI・クラウド戦略の実務課題と展望について議論され、日本企業の導入動向や経営層のAI理解の進展が確認されました。
本ウェビナーを通じて、半導体業界におけるデータ基盤の重要性と、AI・クラウドを活用した新しい設計・製造の可能性を共有できました。NetAppは、柔軟でセキュアなハイブリッド環境と革新的なデータ管理ソリューションを通じて、皆さまのイノベーションを支えるパートナーであり続けます。今後も最新の情報や事例を発信してまいりますので、ぜひご期待ください。
2019年4月よりNetAppに入社。IT業界でのマーケティング業務にて長年に渡り培ってきた経験を活かし、ABM、イベント企画・運営、コンテンツマーケティング、広告など幅広くフィールドマーケティング業務に従事しています。