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NetApp Industry Summit ​ -攻めのAI・データ基盤で創る、半導体の新時代-

イベントレポート

NetApp Industry Summit
目次

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庄司 知代 (Tomoyo Shoji)
庄司 知代

半導体設計とEDAの世界は、AI技術の進展とともに急速な変化の只中にあります。設計の高度化・大規模化が進む一方で、膨大なデータをいかに活用し、意思決定や開発効率の向上につなげていくかが、企業競争力を左右する重要なテーマとなっています。

こうした背景のもと2025年12月10日に開催された「NETAPP INDUSTRY SUMMIT

- 攻めのAI・データ基盤で創る、半導体の新時代-」では、NetApp Specialistsの来日を迎え、半導体業界の最新技術動向をはじめ、EDAとAIの融合がもたらす新たな可能性、クラウドを活用したEDAソリューション、そして国内外の実践的なユースケースについて、多角的な視点から紹介されました。

データから意思決定へ:次世代EDAのためのエージェントAIとトポロジカル・インテリジェンス

NetApp, EDA Technical Industry Lead, Janhavi Giri​

エージェントAIとトポロジカルデータ解析が切り拓く半導体データ活用の次章

半導体産業は今、これまでにないスピードで進む微細化と設計・製造の高度化に直面しています。プロセスノードは数ナノメートル領域へと進み、設計フローや製造工程は複雑さを増す一方です。本稿では、EDA Summit において共有された議論をもとに、こうした変化がもたらすデータ課題と、それに対する新たなアプローチとしてのエージェントAIおよびトポロジカルデータ解析(TDA)について考察します。

スケーリングの進化とデータ爆発という現実

IC設計の歴史を振り返ると、ムーアの法則に象徴されるトランジスタスケーリングの時代から、製造コスト最適化を重視する時代、そして現在の「複雑性の時代」へと移行してきました。先端ノードでは新しいアーキテクチャやパッケージ技術が導入され、AI向けチップの設計規模も拡大しています。

この進化の裏側で深刻化しているのが、設計および製造に伴うデータ量の爆発です。EDAプロジェクトでは数千万単位のファイルが生成され、製造工程では数百のプロセスステップそれぞれが膨大な計測データを生み出します。データはムーアの法則以上のスピードで増加し、従来型の分析手法や人手による判断では限界が見え始めています。

エージェントAIという次の選択肢

こうした課題に対する一つの有力な解が、エージェントAIです。従来の分析が「人が判断すること」を前提としていたのに対し、エージェントAIは、環境を認識し、推論し、行動する自律的なソフトウェアとして設計されます。

エージェントAIは、単なるチャットボットやAIアシスタントの延長ではありません。明確な目標を持ち、状況に応じて判断を下し、必要なアクションを自律的に実行します。OPC(光近接補正)やウェハ検査といった半導体製造の中核プロセスにおいても、従来はエンジニアが介在していた意思決定を大幅に自動化できる可能性が示されています。

マルチエージェント化がもたらす設計・製造の変革

さらに視野を広げると、設計から検証、製造に至る各工程に特化したAIエージェントを連携させる「マルチエージェント」構成も現実味を帯びてきています。各エージェントが専門領域を担い、全体を統括するエージェントが判断の整合性を保つことで、複雑なEDAフロー全体を自律的に最適化する未来像が描かれています。

その一方で、計算資源の配分、スケーラビリティ、エージェント間通信といった新たな課題も浮かび上がります。こうした点を踏まえ、業界ではすでに実装に向けた動きが始まっており、ユーザー側にも備えが求められています。

複雑なデータを理解する鍵としてのトポロジカルデータ解析

エージェントAIを支える分析技術として、本稿で注目したいのがトポロジカルデータ解析(TDA)です。TDAは「データの形状」に着目する手法で、高次元かつ非線形なデータに潜む構造を可視化・理解することを可能にします。

半導体製造データは、数値、画像、ログが混在する典型的な複雑なデータです。従来のクラスタリングでは捉えきれない欠陥パターンや異常の兆候も、TDAを用いることで構造的に把握できます。ウェハマップ解析においては、欠陥の種類や組み合わせごとにデータを自然に分離し、その違いがどこから生じているのかを説明可能な形で示せる点が大きな特徴です。

エージェントAIを支えるデータ基盤の重要性

自律的なAIを現場で機能させるためには、データ基盤の整備が不可欠です。多様な形式のデータを安全に蓄積・管理し、高速に処理できるインフラ、そして知的財産を守るためのセキュリティとコンプライアンス対応が求められます。加えて、AIの判断を信頼するためには、説明可能性を担保する仕組みも欠かせません。

自動化から自律化、そして説明可能な意思決定へ

本稿で取り上げたエージェントAIとトポロジカルデータ解析は、半導体産業におけるデータ活用を「自動化」から「自律化」へと押し進める重要な要素です。複雑さが増し続ける設計・製造の現場において、人とAIの役割分担は大きく変わろうとしています。

今後求められるのは、単にAIを導入することではなく、その判断を理解し、信頼し、活用できる環境を整えることです。エージェントAIとTDAは、その実現に向けた現実的な一歩として、次世代EDAと製造競争力の鍵となるでしょう。

AI-Driven EDAが拓く、次世代半導体設計の新時代

シーメンスEDAジャパン株式会社​技術本部技術本部長 丁子 和之 氏

AIドリブンEDAとデータ基盤が導く、次世代半導体設計の姿

半導体産業は現在、設計需要の急拡大とデータ量の爆発という二つの大きな変化に直面しています。AIとデータが牽引する「第五のコンピューティングの波」は、EDAの役割そのものを再定義しつつあります。本稿では、AIドリブンEDAとデータ中心設計が、どのように半導体開発の在り方を変えていくのかを考察します。

データとAIが主役となる設計環境への転換

これまでの半導体設計は、ハードウェアを起点としたアプローチが主流でした。しかし現在は、ソフトウェア要件を起点にハードウェアを最適化する「ソフトウェアファースト」の時代へと明確に移行しています。その背景には、AIワークロードの拡大と、それに伴う設計・検証・製造データの急増があります。

設計の反復回数は増え、シミュレーション規模も拡大し、EDAツールだけでなく、HPC、ネットワーク、ストレージを含めたデータ基盤全体が設計生産性を左右する要素となっています。

チップから社会インフラまでをつなぐ視点

半導体はもはや単体のデバイスではなく、クラウド、車載、産業機器、都市インフラまでを支える知能の基盤へと進化しています。シーメンスEDAが掲げる「チップ・トゥ・シティ」という考え方は、チップ設計データが最終的に社会システム全体の最適化へとつながる世界観を示しています。

このような構造変化の中で、IC、パッケージ、電子システムを個別に最適化する従来の手法では限界があります。設計・検証・製造・運用を横断してデータを循環させる仕組みが不可欠となっています。

包括的デジタルツインが果たす役割

AIドリブンEDAを支える中核技術が、包括的デジタルツインです。単なる3Dモデルや単発のシミュレーションではなく、構想から設計、製造、実運用までを一つの知識基盤として結び付ける考え方です。

現場で得られたデータが設計にフィードバックされ、AIが継続的に学習・最適化を行うことで、設計品質や歩留まりの向上が加速します。デジタルツインは、データが増えるほど価値を高める循環型のインフラとして機能します。

EDAに求められるインダストリアルグレードAI

EDAにAIを適用する際には、一般的なアプリケーションとは異なる厳しい要件があります。結果の検証可能性、正確性、堅牢性、汎用性、そして設計フローへの自然な統合が欠かせません。

そのため、EDAでは機械学習、強化学習、生成AI、AIエージェント、エージェントAIを適材適所で組み合わせるハイブリッドなアプローチが重要になります。単一のAI技術ではなく、複数の技術を補完的に活用することで、実運用に耐える知能化が実現します。

AIと人が協業する設計の未来

AIは膨大なデータを解析し、最適解を高速に提示する「計算の知性」を担います。一方で、人は経験や洞察をもとに新たな発想を生み出す「創造の知性」を担います。この二つを掛け合わせることで、これまでにない設計生産性と品質が実現されます。

EDAは、人が使う道具から、ともに学び進化するパートナーへと変わりつつあります。AIを使いこなすエンジニアこそが、次世代の半導体開発を牽引する存在になるでしょう。

AI/EDAプラットフォーム(AFX/AIDE)、AI/EDAデータレイク(StorageGRID)/APAC地域のユースケース紹介​​

NetApp APAC SA Director, Balbeer Bhurjhee​

EDA ワークロードの進化と、ハイブリッドインフラが果たす役割

— NetApp AFX と AI Data Engine を通じて —

本稿では、イベントで実施したセッション内容をもとに、EDA(Electronic Design Automation)分野におけるインフラの変化と、NetApp が提供するハイブリッドクラウド基盤の方向性について整理します。イベントレポートの要素を含めながら、背景にある技術的な考え方をコラム形式でまとめています。

EDA 分野で顕在化するインフラの限界

EDA ワークロードは、半導体プロセスの微細化とともに急速に高度化しています。計算性能への要求は継続的に高まり、現在では従来の数倍規模の性能を求められるケースも少なくありません。加えて、3nm 世代の設計では、1 プロジェクトあたり 1PB を超えるデータを扱う場面も現実的になっています。

このような規模になると、課題は単なる計算資源の不足にとどまりません。データは非常に大きく、移動やバックアップ、リフレッシュといった運用面での負荷が増大します。さらに、オンプレミスのデータセンターでは物理的なスペースの制約も顕在化しており、従来のインフラ設計そのものが見直しを迫られています。

ハイブリッドクラウドが前提となる理由

こうした背景から、EDA 環境におけるクラウド活用は一時的な選択肢ではなく、前提条件として捉えられるようになっています。ただし重要なのは、単にクラウドを利用することではなく、オンプレミスとクラウドをどのように組み合わせるかという点です。

EDA ワークロードでは、ツールチェーンやデータ構造が複雑であり、実行環境ごとに運用が変わることは大きな負担になります。そのため、ハイブリッド環境においては、運用や管理の一貫性が極めて重要です。オンプレミスとクラウドのどちらであっても、同じ操作性、同じ API、同じセキュリティモデルを維持できることが、現実的なハイブリッド運用を支えます。

NetApp AFX が示すスケールアウトの考え方

セッションでは、新しいポートフォリオである NetApp AFX について紹介しました。AFX は ONTAP をベースとしたスケールアウト型のストレージプラットフォームで、最大128コントローラまで拡張可能な設計となっています。

EDA ワークロードの特徴は、将来的な規模を正確に見積もることが難しい点にあります。そのため、必要に応じて段階的に拡張できる柔軟性が不可欠です。AFX は、コンピュートとストレージを独立してスケールできる構成を採用しており、大規模かつ高負荷な環境においても無理のない拡張を可能にします。

また、NFS(pNFS を含む)と S3 オブジェクトストレージの両方をサポートしている点も、EDA とその周辺ワークロードを支える基盤として重要な要素です。

AI Data Engine がもたらすデータ中心の AI 活用

本稿では、もう一つの重要な要素として NetApp AI Data Engine にも触れます。AI 活用が広がる中、多くの組織が直面している課題の一つが、データ準備にかかる時間とコストです。

AI Data Engine は、AI をデータ側に寄せるという考え方を採用しています。データがストレージに書き込まれる段階で、メタデータ生成、データ同期、セキュリティ制御、ベクトル埋め込みの生成を自動的に行います。これにより、AI 活用において最も負荷の高い前処理工程を効率化し、データ活用までのリードタイムを短縮します。

生成されたベクトルデータは、そのまま、エージェントAIや LLM と連携できるため、後続の活用フェーズへの移行もスムーズになります。

FlexCache による現実的なハイブリッド運用

イベントでは、FlexCache を活用したハイブリッド運用の具体例も紹介しました。オンプレミスに 200TB のデータが存在する場合でも、クラウド側には必要な 20TB のみをキャッシュとして配置し、ユーザーからは 200TB 全体が見える構成を実現できます。

この仕組みにより、クラウドストレージコストを抑えつつ、必要なデータに対して高いパフォーマンスを提供できます。EDA のようにファイルアクセスが集中するワークロードにおいて、無駄なデータ移動を避けながら性能を確保できる点は、現実的なハイブリッド運用モデルと言えます。

EDA ワークロードが直面する課題と、それに対する NetApp の取り組み

EDA と AI の進化が続く中で、インフラには柔軟性、拡張性、そして一貫性が求められます。NetApp AFX、AI Data Engine、FlexCache は、ハイブリッドクラウドを前提としたデータ基盤を構成するための具体的なアプローチです。インフラが制約ではなく、可能性を広げる基盤となることが、これからの EDA 環境において重要な要素になると考えられます。

ハイブリッドクラウドEDAソリューション紹介

ネットアップ合同会社 ソリューション技術統括本部 第一技術本部 ソリューションズエンジニア

川島千種

ハイブリッドクラウド時代に考えるEDA基盤のあり方

― 設計現場が直面する現実と、その解決策 ―

半導体業界の最新動向を踏まえながら、EDA環境に求められるインフラ要件と、NetApp ONTAPを活用したハイブリッドクラウド構成について解説します。

半導体市場は、生成AIの需要拡大を背景に急速な成長を続けています。それに伴い、設計規模の拡大やシミュレーションの高度化が進み、EDA環境ではこれまで以上に大量のデータと高い処理性能が求められるようになっています。

こうした変化の中で、EDA基盤に求められているのは、単なる性能向上ではなく、成長と変動を前提とした柔軟なインフラ設計です。

EDAストレージに求められる現実的な要件

本セッションでは、EDA環境において特に重要となるストレージ要件として、以下のポイントを取り上げました。

  • 高性能・低レイテンシー
  • 大容量とスケーラビリティ
  • コスト効率
  • セキュリティとデータ保護
  • オンプレミスとクラウドをまたぐ柔軟性

EDAツールは、多数の小さなファイルアクセスと巨大なデータセットの読み書きを同時に行う特性があります。そのため、単一ノードで完結する構成では限界があり、ストレージ全体で性能を引き出せるアーキテクチャが必要になります。

スケールアウトとデータライフサイクルの最適化

ONTAPのFlexGroupは、複数ノードにまたがるスケールアウト構成を可能にし、EDAの並列処理ワークロードに適したストレージ基盤を実現します。単一のネームスペースで大容量を扱いながら、クラスタ全体の性能を活用できる点は、EDA環境において大きなメリットとなります。

また、EDAデータは常に高頻度でアクセスされるわけではありません。設計中は“ホット”だったデータも、時間の経過とともにアクセス頻度は下がっていきます。FabricPoolによる自動階層化を活用することで、ホットデータは高速なフラッシュに、コールドデータは低コストなストレージへと自動的に配置され、性能とコストのバランスを保った運用が可能になります。

ハイブリッドクラウドという現実解

EDA環境の配置については、オンプレミス、フルクラウド、ハイブリッドクラウドという選択肢がありますが、近年注目されているのがハイブリッドクラウドです。

オンプレミス環境で日常的な設計業務を行いながら、設計ピーク時にはクラウドの計算リソースを活用する。この構成を現実的に支える技術として紹介したのが、FlexCacheです。

FlexCacheを活用することで、オンプレミスの設計データやライブラリを起点としつつ、クラウド側では必要なデータのみをキャッシュとして利用できます。これにより、データ転送量やコストを抑えながら、柔軟なクラウドバーストを実現できます。

「どこで動かすか」より「どう管理するか」

EDA基盤において重要なのは「オンプレミスかクラウドか」という二択ではなく、どこにあっても一貫したデータ管理ができることだという点です。

ONTAPは、オンプレミスと各クラウドサービス上で同じストレージOSとして動作し、運用やデータ管理の考え方を変えることなくEDA環境を拡張できます。これは、設計スピードや運用効率に直結する重要な要素です。

EDA環境は今後も進化を続けます。その変化を前提としたインフラとして、柔軟性と一貫性を備えた基盤をどのように構築するか。本イベントが、その検討の一助となれば幸いです。

まとめ

半導体設計・製造の現場では、データ量と複雑性の増大により、従来のツールや運用だけでは意思決定のスピードと精度を維持することが難しくなっています。本イベントで示されたエージェントAIやAIドリブンEDAの取り組みは、こうした課題に対し、データを起点とした新しい意思決定モデルへの転換を示すものでした。 その実現には、AIを支えるデータ基盤が不可欠です。NetAppは、EDA特有の大規模・高負荷なワークロードに対応するスケーラビリティと、オンプレミスからクラウドまで一貫したデータ管理を可能にするハイブリッドクラウド基盤により、AIとEDAの実装を現実のものにします。

データを価値創出の起点として活かすことで、NetAppはエージェントAIによる自律的かつ説明可能な意思決定を支え、次世代EDAと半導体開発の進化を支援していきます。

庄司 知代 (Tomoyo Shoji)

庄司 知代

2019年4月よりNetAppに入社。IT業界でのマーケティング業務にて長年に渡り培ってきた経験を活かし、ABM、イベント企画・運営、コンテンツマーケティング、広告など幅広くフィールドマーケティング業務に従事しています。

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