-自動車業界向け ストレージソリューション勉強会-レポート
2025年7月17日に実施した「NETAPP INDUSTRY SUMMIT AUTOMOTIVE -自動車業界向け ストレージソリューション勉強会-」の講演内容をサマリーでまとめます。ストレージソリューション勉強会では、クラウド移行、HPC活用、ライセンス問題、組織連携など自動車業におけるデータを含む全方位的に理解を深められるようなイベントとなりました。
NetApp Global Vertical Leader for Automotive
Lamodiere Jean-Christophe
自動車業界は今、かつてない変革の渦中にある。ソフトウェア定義車両(SDV)、生成AI、クラウド活用、そしてサイバー攻撃への備え──これらすべてに共通するのは「データ」の存在です。NetAppは、こうした課題に対し、単なるストレージベンダーではなく、“インテリジェント・データインフラ”を提供するパートナーとして、業界を支えています。本稿では、NetAppが提案するソリューションの全体像と、実際の導入事例をもとに、自動車開発の未来を読み解きます。
自動車業界が直面する4つの課題
NetAppが世界中の顧客と対話する中で、以下のような共通課題が浮かび上がっています:
これらに対し、NetAppは「ONTAP」という共通のデータ基盤を軸に、オンプレミスとクラウドをまたいだ柔軟なソリューションを提供しています。
NetApp ONTAP──すべてのデータを“つなぐ”OS
ONTAPはNetAppのストレージOSであり、以下のような特徴を持っています:
これにより、部門間のデータ連携や、クラウド移行、災害復旧などがシームレスに行えます。
PLM(製品ライフサイクル管理)での活用
NetAppは15年以上にわたり、 PLMソリューションとの連携を得意とし、 以下を実現してきました:
Mercedes-BenzやRivianなどの顧客が、AWS FSx for NetApp ONTAPやNetApp Cloud Volumes ONTAPを活用して、グローバルな開発環境を構築しています。
CAEシミュレーション(HPC)での活用
CAE(Computer-Aided Engineering)では、膨大な計算処理とデータ転送が求められます。ONTAPのマルチプロトコル対応により:
Rivianでは、これにより年間数百万ドルのインフラコスト削減を実現しています。
SDVとDevOpsの高速化
車両のソフトウェア開発では、DevOpsの高速化とセキュリティが鍵となる。NetAppは以下を提供:
これにより、開発スピードと品質保証の両立が可能になります。
ナレッジマネジメントと生成AI(RAG)
NetAppは、Microsoft CopilotなどのLLM(大規模言語モデル)と連携する「NetApp NEO」を提供しています。これにより:
生成AIを活用した「エージェント型AI」の構築も可能で、開発現場の知識活用を加速しています。
サイバー・レジリエンスの強化
製造業はサイバー攻撃の標的になりやすく、NetAppは以下の3段階で対応:
米国の自動車メーカー「Motor Coach」は、3拠点での大規模攻撃から、NetAppのFlexPod環境で利用されているONTAPのSnapshot機能により迅速に復旧しました。
“信頼できるパートナー”としてのNetApp
NetAppは、単なるストレージベンダーではなく、以下を支援する「信頼できるパートナー」です:
データは、もはや“保存するもの”ではなく、“活用するもの”へと進化している。NetAppは、その変革を支えるインフラを提供し、製造業の未来を共に創っていく。今後も、製造業のDXを支えるインテリジェント・データインフラの進化にご期待ください。
株式会社電通総研 製造エンジニアリング本部 エンジニアリングクラウド技術部
倉田 直弥 氏
製造業向けソリューションの拡大とCAEへの注力
電通総研では、金融・ビジネス・製造・コミュニケーションの4領域で事業を展開しており、近年は特に製造ソリューションの比重が高まっています。その中でもCAE領域は、製品開発の高度化に伴い、重要性を増しています。同社は2005年からCAEジョブ管理サービス「CAE-One」を提供し、2012年にはクラウドCAEサービス「Plexus CAE」を立ち上げました。以降、AWS、Azure、OCIなど複数のクラウドベンダーと連携し、クラウドHPCの実績を積み重ねてきました。
マルチクラウド化の背景と課題
クラウド活用が進む一方で、以下のような課題も顕在化しています:
これらを受け、電通総研では「マルチクラウド化」を推進し、柔軟かつ拡張性の高いインフラ構築を目指しています。
NetApp KeystoneとEquinixを活用したストレージ一元化
マルチクラウド環境においては、ストレージの一元化が大きな課題となります。クラウドごとにストレージが分散すると、運用負荷やコストが増大するためです。
そこで電通総研は、NetAppの従量課金型ストレージサービス「Keystone」と、Equinixの外部データセンターを組み合わせた構成を採用しました。これにより
といったメリットを実現しています。
マルチクラウド・デポジット制度による柔軟な予算管理
さらに、クラウド利用に関わる予算を電通総研が一括管理する「マルチクラウド・デポジット制度」も導入。これにより、クラウド利用料、NetAppストレージ、Equinixの接続費用などを一元的に管理・支払いできる仕組みを整えました。
NetApp FlexCacheによる海外リージョン活用
最新のHPCリソースは海外リージョンで先行提供されるケースが増えており、これを活用するためにNetAppの「FlexCache」機能を活用した構成も構築されました。Microsoft Azureの海外リージョンにNetApp CVO(Cloud Volumes ONTAP)を配置し、日本のデータセンターとキャッシュ連携。これにより、ユーザーは意識することなく海外の高性能リソースを利用できる環境が整備されました。
実運用での成果と安定性
実際の運用においても、以下のような成果が得られています:
これらにより、ユーザーにとっても運用者にとっても、安定かつ柔軟なインフラが実現されています。
今後の展望
電通総研では、今後もNetAppとの連携を深め、CAE/HPC領域にとどまらず、SDV(ソフトウェア定義車両)やAIなど新たな分野への展開を加速していく方針です。
株式会社アルゴグラフィックス
ITビジネス統括本部 統括本部長 フェロー 高井 円 氏
アルゴグラフィックスでは、PLMを中心としたものづくり支援に加え、仮想化、クラウド、セキュリティ、HPC/AIといった分野で、実践的かつ柔軟なソリューションを展開しています。
IMS(インテグレーテッド・マネージド・サービス)による柔軟な運用支援
近年、オンプレミスからクラウドへの移行が進む中で、マネージドサービスへのニーズが高まっています。アルゴグラフィックスでは、IMSという名称で、ハードウェアのサブスクリプション提供から、構築・運用・保守までを一貫して支援するサービスを展開しています。特に、北海道北見市に新設される「北見ハイテクパーク」内のデータセンターは、寒冷地の特性を活かした省エネ型施設として、今後のマネージドサービスの中核を担う予定です。
DX仮想基盤とクラウド連携の実践
製造業のITインフラでは、仮想化基盤の整備が進んでいます。BroadcomによるVMwareの買収をきっかけに、ハイパーバイザーの選定や移行が課題となる中、アルゴグラフィックスでは以下のような構成を提案しています:
また、GPUリソースの遠隔利用にはHDI(Hosted Desktop Infrastructure)やVDIを活用し、HP Anyware(旧RGS)やTGX、DCVなどのリモートデスクトップ技術を組み合わせています。
セキュリティとバックアップの強化
ランサムウェア対策として、以下のような機能を積極的に導入しています:
セキュリティ製品としては、CrowdStrike、Cybereason、Microsoft Defenderなどを顧客ニーズに応じて提案しています。
NetAppとの連携と信頼性
NetAppは、アルゴグラフィックスのITインフラにおいて長年にわたり重要な役割を果たしてきました。特に以下の点で高く評価されています:
また、NetAppのセキュリティ機能は、製造業のBCP対策としても有効であり、スナップショットの自動取得や改ざん防止機能が多くの企業で活用されています。
今後の展望と提案
アルゴグラフィックスでは、今後もNetAppをはじめとするパートナーと連携し、以下のような領域での展開を加速していきます:
製造業のITインフラは、単なる「設備」ではなく、競争力の源泉です。アルゴグラフィックスは、長年の実績と最新技術を融合させ、お客様のDX推進を支援しています。今後も、信頼性・柔軟性・拡張性を兼ね備えたインフラ構築を通じて、ものづくりの未来を支えてまいります。
NetApp CTO – Automotive, Schroeder Tilman
NetApp Technical Solution Specialist for Automotive, Jesse Lafer
自動運転(Autonomous Vehicle:AV)および先進運転支援システム(Advanced Driver Assistance Systems:ADAS)の開発において、いかにしてデータパイプラインが重要な役割を果たすのか、そしてNetAppがどのようにその基盤を支えているのかについて紹介します。
データパイプラインとは何か
自動運転技術の開発には、膨大な量のデータが関わってまいります。データの収集、シミュレーション、ラベリング、AIトレーニング、そしてアーカイブといった一連のプロセスを通じて、車両の知能は進化していきます。これらのプロセスを円滑に、かつ効率的に進めるためには、柔軟でスケーラブルなデータパイプラインが不可欠です。
NetAppでは、AWS、Azure、Google Cloudといった主要なクラウドプロバイダー、さらにはSiemensやANSYSといったISV(独立系ソフトウェアベンダー)と連携し、クラウドおよびオンプレミスの両方に対応したソリューションを提供しております。目的は明確で、より堅牢で、コスト効率が高く、パフォーマンスに優れたインフラを構築することです。
1日100TBの衝撃─自動運転時代のストレージ戦略
AV/ADAS開発におけるデータ活用の全体像と、それを支えるインフラの重要性についてビデオメッセージで伝えました。Jesse Laferのビデオメッセージ動画はこちらから確認できます。
5つの開発フェーズとインフラ要件
NetAppが提供するソリューション
顧客事例に見る導入効果
未来を見据えたNetAppのAIビジョン(今後リリース予定)
NetAppは、AIとHPC(高性能コンピューティング)に最適化された「インテリジェント・データインフラ」の構築を推進しています。
AI技術が日々進化する中、データインフラの柔軟性と拡張性は、企業の競争力を左右する重要な要素です。NetAppは、オンプレミスからクラウドまで、あらゆる環境でのAI活用を支えるパートナーとして、未来のモビリティ社会を支えています。
ハイブリッドクラウドの活用が鍵
私たちが強く提唱しているのが、ハイブリッドクラウドの活用です。オンプレミス環境では、低遅延やデータ主権の確保といった利点があります。一方で、クラウドはスケーラビリティや柔軟性に優れており、特にGPUリソースの確保が困難な現在においては、クラウドの活用が極めて有効です。
たとえば、オンプレミスのGPUがフル稼働している場合でも、NetAppのキャッシュ技術「FlexCache」を使えば、クラウド上にキャッシュを作成し、追加のGPUリソースを活用して処理を高速化することが可能です。逆に、クラウドにあるデータをオンプレミスで活用することもできます。双方向の柔軟なデータ移動が可能な点が、私たちの大きな強みです。
単なるストレージベンダーではなく、共創パートナーとして
NetAppは、単にストレージを提供する企業ではありません。私たちは、お客様とともに課題を分析し、最適なワークフローを設計し、『実際に価値を生み出すデータパイプラインを構築する「共創パートナー」』でありたいと考えております。
私たちは、AWS、Azure、Google Cloudといった主要クラウドベンダーと「ファーストパーティサービス」として連携しており、これにより、クラウドとオンプレミスをシームレスに接続することが可能です。別の管理ツールやライセンスを用意する必要もなく、クラウドネイティブな環境でそのままNetAppの技術を活用できるのです。
自動運転の未来を支える「見えないインフラ」
自動運転の未来を支えるのは、車両そのものだけではありません。その裏側で膨大なデータを収集・処理・活用するための「見えないインフラ」こそが、次世代モビリティの鍵を握っていると私は考えております。
私たちNetAppは、これまで多くの自動車メーカーやTier1サプライヤーと協力し、実績を積み重ねてまいりました。今後も、皆さまとともに、より効率的で持続可能なデータ基盤を構築し、自動運転の社会実装を加速させていきたいと考えております。
本田技研工業株式会社 コーポレート管理本部デジタル改革統括部 ECMシステム部 エンジニアリングシステム1課 チーフエンジニア 宇都宮 倫明 氏の司会により進められました。
日産自動車様の本日のイベントの感想から始まり以下のような質疑応答の中盛況のうちに終わりました。
質問1:欧州メーカーの成功事例に学ぶ、IT部門と業務部門の連携のコツは?
質問 2:クラウド移行の効果をどう定量的に示すか?特に30%の工数削減はどう証明する?
質問3:HPC以外の領域(AI、PDMなど)へのストレージ展開はどう進めるべきか?
質問4:10年後のNetAppはどのような世界を見据えているのか?
質問5:NetAppは高性能と安定性をどう両立しているのか?
自動車業界におけるITインフラの課題と展望について、現場の声とグローバルな視点が交差する、非常に実りある議論が交わされました。クラウド移行の定量的な効果、ITと業務部門の連携、ライセンスや人材不足といった現実的な課題に対し、各社の知見や経験が共有されたことは、今後の取り組みに向けた大きなヒントを得られる一助になれば嬉しく思います。
特に印象的だったのは、「ITの投資は単なるコストではなく、業務全体の効率化と競争力強化につながる」という共通認識です。インフラ、アプリケーション、組織の在り方を見直し、柔軟かつ持続可能な形で進化させていくことが、これからの製造業に求められる姿だと改めて感じさせられました。
NetAppは、今後もこうした場を通じて、業界全体で知見を共有しながら、より良い未来を共に築いていければと思います。
2019年4月よりNetAppに入社。IT業界でのマーケティング業務にて長年に渡り培ってきた経験を活かし、ABM、イベント企画・運営、コンテンツマーケティング、広告など幅広くフィールドマーケティング業務に従事しています。