〜EDA on the Cloud – Tokyoイベント登壇レポート〜
2025年9月16日にAWS主催の「EDA on the Cloud – Tokyo」イベントにて、NetAppは「革新的な半導体設計を支えるAmazon FSx for NetApp ONTAPの力」と題して講演を行いました。
急成長する半導体市場において、Electronic Design Automation(以下、EDA)ワークロードの最適化は、設計のスピードと品質を左右する重要な要素です。本記事では、当日の講演内容をもとに、Amazon FSx for NetApp ONTAP(以下、FSx for ONTAP)がもたらす技術的価値と実際の導入事例をご紹介します。
半導体業界は過去34年間にわたり、9回の景気収縮と成長を繰り返してきました。これは、技術革新と市場需要の変動、地政学的な影響、サプライチェーンの課題などが複雑に絡み合った結果です。
World Semiconductor Trade Statistics(2024年10月時点の履歴売上レポート)
市場規模としては、2025年は、6,970億ドル(過去最高)の予測となっており、2030年には1兆ドルに達する見込みです。成長を支える要因は、生成AI(GenAI)チップの需要拡大です。
大幅な需要増や収縮期に備えて柔軟に開発ができる環境を整えることが求められています。
EDAワークロードは、設計・検証・シミュレーション・解析など多岐にわたる工程で構成されており、以下のような特性を持ちます。
上記の特性に対応するためには、単なるストレージ容量だけでなく、I/O性能、レイテンシ、スケーラビリティ、セキュリティ、コスト効率など、総合的なストレージ設計が不可欠です。
NetAppのONTAP技術をベースにしたFSx for ONTAPは、EDA環境において以下の価値を提供します。
ハイパフォーマンスとスケーラビリティ
コスト効率と階層化
セキュリティとデータ保護
柔軟なクラウド連携
EDA向けのワークロードを設計するため「Best Practices for Electronic Design Automation (EDA) Workloads with Amazon FSx for NetApp ONTAP」の公開がされており、EDAワークロードにおけるストレージは、ONTAPがデファクトスタンダードともいえるでしょう。
Annapurna Labs
Annapurna Labsは、Amazon傘下の半導体企業であり、機械学習向けチップの設計を手がけています。AWS が設計した Graviton プロセッサ、AWS Inferentia、AWS Trainium チップ、AWS Nitro System など、AWS 向けの高度なコンピューティング、ネットワーキング、セキュリティ、ストレージテクノロジーを開発しています。EDAワークロードの可用性とスケーラビリティが課題となっていた同社は、FSx for ONTAPを導入することで、以下の成果が得られました。
技術的には、FSx for ONTAPの階層化(Tiering)機能を活用し、アクセス頻度に応じたデータ配置を最適化。これにより、コストと性能のバランスを高次元で実現しました。
Arm
Arm社は、世界的な半導体IPベンダーとして、複雑なEDA環境を運用しています。50以上のEDAツールを活用する設計環境では、オンプレミスだけではスパイク的な計算需要に対応しきれず、クラウドの柔軟性が求められていました。
FSx for ONTAPの導入により、以下の成果が得られました。
Arm社は、FSx for ONTAPのスケールアウト機能と階層化を活用し、オンプレミスとの親和性を保ちながらクラウドへの移行をスムーズに実現しました。
NVIDIA
GPU設計を手がけるNVIDIAは、EDAジョブの実行に大量のコンピュートリソースを必要とするため、クラウドの活用が不可欠でした。FSx for ONTAPを中心に据えたハイブリッドクラウド環境を構築し、以下の成果が得られました。
特筆すべきは、NVIDIAが構築したPODアーキテクチャです。これは、仮想データセンターとしてストレージ・コンピュート・ジョブスケジューラーを統合し、オンデマンドでスケール可能な環境を提供するものです。FlexCacheを活用することで、150TBのデータセットをフルコピーせず、必要な部分だけをキャッシュとしてAWS上で稼働させることが可能となりました。
生成AIの活用が進む中、企業が抱える課題の一つが「クローズドデータ(機微情報)」の取り扱いです。NetAppはこの課題に対し、FSx for ONTAPを活用したハイブリッド生成AI環境を一つの選択肢として提案しています。
主な課題
NetAppのソリューション
クローズドデータをオンプレミスに保持したまま、クラウド環境で生成AIのRAG(Retrieval-Augmented Generation)が利用可能です。FlexCacheやSnapMirrorを活用し、必要なデータのみをキャッシュまたはミラーリングすることができ、オリジナルであるオンプレミスのデータが変更されることはありません。
本ソリューションについては、広島大学、AWS社と実証実験を実施し、GitHubにCDKベースのサンプルコードを公開しております。
今後の展望としては、自動車業界での設計データのAI解析、半導体設計におけるAIによる最適化と検証の高速化、Amazon Qとの連携による企業内ナレッジ活用などが考えられます。
まとめ
急成長する半導体市場において、NetAppのハイブリッドクラウドソリューションは、柔軟性・スピード・信頼性を兼ね備えたEDA環境の構築を支援します。FSx for ONTAPは、クラウドネイティブなEDA設計と生成AI活用の両面で、企業の競争力を高める鍵となるでしょう。
今後もNetAppは、AWSとの連携を強化し、半導体設計や生成AIなどの先端領域におけるデータ活用を支援してまいります。
参考資料:
https://github.com/NetAppJpTechTeam/Permission-aware-RAG-FSxN-CDK
AWSパートナーにてクラウド事業の責任者を経て、ネットアップではSales SpecialistとしてAWSへのマイグレーションを中心に、導入支援やマーケティング活動等に従事。
JAWSクラウド女子会運営メンバー。