現在、仮想環境やオブジェクトストレージ、コンテナ環境等、NetAppの製品やデータサービスの利用は多岐に渡りますが、NetApp=「ファイルサーバ」として従来からご利用いただいているお客様も多くいらっしゃいます。
本記載での「ファイルサーバのデータ移行実践編」は、主に他社ストレージから弊社ストレージのリプレースの際に、データ移行ツールとして弊社で利用するDataDynamics社の ソフトウェア「StorageX」についてご説明させていただきます。
使用するソフトウェア/方法を選定します。新旧のストレージや、それらのOSバージョン等から、最適な方法を決定します。弊社ONTAPからONTAPへのリプレースの際には、ストレージの転送機能を第1候補とします。その中で、SnapMirrorを採用できるかどうか、または、Volume MoveやSVM DR等も利用可能かを検討します。
次に、他社製等の理由でストレージ機能が使用できない場合には、仲介サーバを介したコピー方式を検討します。
図1: ストレージベースと仲介サーバを用いた転送イメージ
本掲載では、後者の仲介サーバとコピー専用ソフトウェアを使用する方法について紹介します。前提としては以下の通りです。
本掲載での前提条件
仲介サーバを介した転送方法として、弊社で候補とするソフトウェアは以下となります。
ソフトウェア名 | 特徴 |
XCP | NetApp社が提供するファイル転送用のソフトウェア |
robocopy | Windows 標準のアプリケーション。NTFSからNTFSへのデータ転送に使用することが可能であり、SMB互換にも使用可能。 |
StorageX | Data Dynamics社のソフトウェア。一般的なSMB/CIFSファイルサーバに対応。シンボリックリンクやReparsePointに未対応。容量ライセンス。 |
DobiMigrate | DataDobi社のソフトウェア。一般的なSMB/CIFSファイルサーバに対応。容量ライセンス。 |
CloudSync | AWS S3や FSxN、Azure Blob等のPublic Cloudへ提供するデータサービスに対してコピーや同期を行うSaaS 型ソフトウェア。使用期間によるライセンス。 |
本記載では、弊社作業において使用頻度が高いStorageXについて紹介させていただきます。
StorageXのデータ転送を担うコンポーネントを記載します。
UDE:転送元のデータを転送先にコピーする機能を担います。Agent と表記される場合があります。
StorageX Server: UDEを管理するサーバで、ステータスやログ、設定情報の保持、ライセンス管理を行います。転送記録のためMicrosoft社のSQLサーバを使用します。
Console:StorageXサーバを操作するための管理画面を提供します。
図2: StorageX コンポーネント(ファイルサーバ用途)
これらは、独立したWindowsサーバで構築することもできますし、サーバ負荷が軽微な小規模な環境であれば、すべて同一のサーバにインストールすることも可能です。実績では負荷の観点からStorageXサーバと管理コンソールを別のサーバとし、UDEを複数構成する場合が多いです。
転送対象のフォルダ単位でジョブを定義し、転送元のフォルダと転送先のフォルダを指定します。
StorageXでは、転送ジョブを「Policy」の呼称で表示、記載しています。
ストレージやネットワークの高負荷によるパフォーマンス低下など、データコピー処理が既存の運用サービスに影響を及ぼさないよう、お客様の運用状況を事前に把握し考察と設計を行います。以下に、主な設定を列挙します。
1. ジョブ単位での設定
項目 | 設定内容/選択肢 |
転送ジョブ
(Policy) |
転送元と転送先のフォルダ |
スケジュール | 開始時刻
開始日、曜日、週次等のスケジュール |
転送時間 | 動作時間 |
フィルタリング | Include / Exclude ルール指定によるフォルダ、ファイルの除外指定
(正規表現も使用可能) |
差分転送の判別ルール | 1. 最終更新時間が古い場合か移行先にファイルが存在しない
2. 最終更新時間が異なる場合 or 移行先にファイルが存在しない 3. 移行先にファイルが存在しない場合のみ |
ACL転送 | ACLを転送するかしないか ローカルユーザSIDの取り扱い(維持/削除) 不明なローカルユーザSIDの取り扱い(維持/削除/Administratorへの置換)
※ストレージ上で定義されているローカルユーザ自体の移行機能はございません |
ログ出力 | 転送エラーのみ 成功も含めすべて |
UDE | UDEが複数ある場合にUDEを個別指定可能 |
2. UDE単位での設定
設定項目 | 選択肢 |
ネットワーク帯域制限 | 日中/夜間、平日/休日 の計4パターン |
同時転送数 | プロセス毎のスレッド数をWindowsレジストリで設定 |
運用中のファイルサーバへアクセスし、大量のファイルをコピーしますので、いくつかエラーが発生することが予想されます。StorageXでは、ログの全数出力を設定すると、以下のようなフォーマットでテキスト形式のログを出力させることが可能です。
エラーになったファイルやフォルダは、「Operation Status」と「Error Message」で判別できます。出力のセパレータ(区切り文字)は [TAB] になっており、転送エラーになったファイル/フォルダを個別にコピーする際、スクリプト等でコマンドを作成しやすいフォーマットになっています。初期転送でほぼ全数のファイルを転送することによって、発生したエラーとその対処方法を切替時転送までに事前に確立しておきます。
StorageX使用時に、頻発するエラーや事象を紹介します。
エラー内容/事象 | 原因 | 対処 |
ファイル名、ディレクトリ名、またはボリュームラベルの構文が間違っています。 | ファイル名に不正な文字列が使用されている | ユーザ側でファイル名を変更するよう通知する |
アクセスが拒否されました。 | ファイル/フォルダにアクセス権限が付与されていない | 強制的にアクセス権限を付与する |
指定したファイルが見つかりません。 | 更新/削除でコピー元にファイルが存在しない | 移行元にファイルが存在しないため、無視する |
ディスクに十分な空き領域がありません。 | 移行先ボリュームの容量がFullになっている。移行元が重複排除されているため、ボリュームの容量より実容量が多くなる | 重複排除されていない場合のボリューム使用容量から、ボリューム容量の拡張を行い、データ転送を行う。 重複排除を実施し、容量が確保された場合、当初のボリューム容量に縮小する |
プロセスはファイルにアクセスできません。別のプロセスが使用中です。 | Officeファイルが編集中でロックされているため、読み込みができない | ファイルが使用されていない時にあらためてコピーを実施する |
転送速度が遅い | ボトルネック箇所を特定する ストレージ性能(CPU,Disk使用率)や回線速度等 | 性能を改善するための対応をお小茄子 |
ファイルが削除される | データ移行時にウィルススキャンサーバにより、ウィルス判定されたため、ファイルが削除される。 | スキャンサーバにて、削除されたファイル名をリストアップし、ユーザに通知する。 |
また、当ソフトウェアは容量ライセンスのため、転送期間中のデータ増加量をあらかじめ見積もったうえでライセンス契約を受ける必要があります。
弊社プロフェッショナルサービスによる作業支援を導入いただいた場合、使用するソフトウェアのライセンス提供とサポートを受けられる体制にて、エンドユーザ様へのプロジェクトを遂行します。弊社で調査困難な事案に遭遇した場合には、ソフトウェアメーカーへエスカレーションを行います。
本記載では、移行ソフトウェア「StorageX」を例に紹介をさせていただきました。データ移行や切替に際しては、データ移行そのものの他に、切替のスケジュール計画や、ファイルサーバのサービスに必要な、ホスト名/IPアドレス等の切替、ウイルススキャンやランサムウェア対応の導入や移行計画なども合わせて計画する必要があります。
弊社プロフェッショナルサービスでは、今日までに様々なユーザ・パートナー様へご支援させていただいており、今後もお役立ていただければ幸いです。
NetAppコンサルタント部門で、弊社プロダクトやクラウドサービスを導入するお客様やパートナー様向けに、設計構築やその支援、コンサルティングを行っています。