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ケーススタディ:
理想的なデータセンターのゼロからの設計

施設やインフラの問題は、どのIT部門にとっても難しい課題ですが、予算が逼迫し、既存のハードウェアや限られたスタッフで何とか問題を解決しなければならないことが多い中小規模の企業では、状況はさらに切実です。

私たちが勤務するThe Regional Cancer Center(RCC)でも、まさにそのとおりの状況が起こっていました。RCCでは、職員179名に対して5名のITスタッフが勤務しています。そのため、他の中規模企業と同様のIT上の課題を抱えていますが、医療機関としては本来、データ可用性、データと画像の長期保存、大容量診断画像データの高速読み出し、およびDisaster Recovery(DR;災害復旧)計画などの面で、より設備を充実させる必要がありました。RCCのITスタッフにとって、IT予算の不足は切実な問題でした。

当院では、つい最近まで老朽化した狭いサーバルームを使用しており、満足な電源設備や冷却機能もなく、予備電源も限られていました(小型のUPSのみ)。幸いにも、2006年終盤に、経営陣はRCCの発展のため、組織として率先してITへの投資を行う必要があるという結論に達しました。2007年から2008年にかけて、IT予算が慎重に計画され、ITインフラに投資するために新たな経営資源が割り当てられました。

その結果、まったく新しいデータセンターをゼロから構築する計画が承認されたのです。これはまさに、私たちITスタッフの夢であり、もちろん同様の企業にとっても同じでしょう。本稿では、私たちが行った新たなデータセンターの構築計画と、新施設へのカットオーバーについて説明します。さらに、施設を稼働させてから達成してきたさまざまな改善点について、運用面と医療面の両方から説明します。


新データセンターの計画

ITは、医療機関が患者に対して行う医療活動の一部になっています。今日の医療の発展には、必ずと言っていいほどITが絡んでいます。そのため、医療に関して、ITは一般的なそれよりも速いペースで成長していると考えて間違いないでしょう。こうした技術的な発展を背景に、もともと多くの欠陥があるRCCの手狭なサーバルームでは、必要とされる拡張要件に対応できる見込みはありませんでした。

旧サーバルームの天井は、水道配管がむき出しの状態でした。冬になると窓の半分が雪に覆われ、空調設備は貧弱で、予備電源もありませんでした。患者へのケアのために、電子データの重要性がますます高まっている現在、上記のような制約はすべてデータの可用性を脅かす原因となります。そのため、新データセンターの物理要件として、次のような条件を挙げました。

  • 床面積の拡大
  • 運用環境の一貫性を確保するための十分なストレージ容量を備えた冗長HVAC
  • FM200消火システム
  • 一時的な電力停止に備えた30 k VA UPS
  • 長時間の電力停止の際にデータセンターの稼働を維持するための予備発電機(2008年秋に導入予定)

RCCには、ペンシルバニア州とオハイオ州に3箇所の出張所があります。これらの出張所が業務を行うにはメインデータセンターのデータにアクセスする必要があるため、たとえ嵐や停電が発生しても、メインデータセンターを停止させることはできません。したがって、予備電源とDR対策は必要不可欠です。また、新しいデータセンターへの投資は、施設だけでは終わりませんでした。私たちはスイッチ、ネットワーク配線、およびストレージを入れ替え、ほぼ100%新しいインフラを導入しました。さらに、耐障害性強化のため、以下を実装しました。

  • iSCSIストレージトラフィックを分離するための新しいバックボーンネットワーク
  • 安定性に優れたクラスタ構成のストレージ
  • DR対策

新データセンターは、同じキャンパス内の旧施設から4分の1マイル(400 m)ほど離れた場所にあります。環境が整えばオフサイトのDRサイトを実装しようと考えていますが、当面は旧データセンターをDRサイトとして転用することにしました。RCCは現在、2つのiSCSI SAN(1つは業務用、もう1つはDR用)を所有しています。4年前にNetApp®ストレージシステムをはじめて導入した際は、Fibre Channel(FC)SANよりもコストパフォーマンスに優れている点から、iSCSIソリューションを選択しました。それ以来、ソリューションの機能に問題がないため、当院では継続してiSCSIを使用しています。

旧ネットワーク設計では、同一のスイッチ上でVLANを使用することにより、iSCSIストレージトラフィックを他のネットワークトラフィックと分離していました。新しいインフラでは、専用のコアスイッチおよび専用のSANコアスイッチを個別に用意し、iSCSI SANを他のネットワークトラフィックから物理的に切り離しています。また、ビル間の光ファイバ配線を2倍にして全体的な帯域幅を拡張し、将来の10ギガビットテクノロジの実装にも対応可能な構成としました。

業務ストレージは現在、クラスタ構成のNetApp FAS2050Aストレージシステムにより、FCドライブを使用して提供されています。DR施設では、シングルコントローラのNetApp FAS2050とSATAディスクドライブを使用しています。DR施設用にSATAディスクを選んだ理由は、経済性を重視しつつストレージ容量を最大化するためです。業務サイトとDRサイトの間では、NetApp SnapMirror®ソフトウェアを使用して、定期的にデータを複製しています。他の一部のDRソリューションとは違い、SnapMirrorではソースシステムとターゲットシステムのコントローラやディスクを統一する必要がありません。

図1)RCCの新インフラの概要図

新データセンターへのカットオーバー

RCCは外来患者向けの施設であるため、診療時間は月~金曜日の午前8時~午後5時です。そのため、週末を計画的なメンテナンスに充てることができます。ただし、通常の診療時間外でも、常に救急患者が運び込まれる可能性があります。そこで、ダウンタイムを最小限に抑えるために、新しい施設へのカットオーバーは段階的に実施しました。

  • 新しいネットワークインフラの実装期限は施設移行日の2週間前に設定しました。データセンターの移行日にあまりにも多くの変更を一度に行うのを避け、ダウンタイムを最小限に抑えるためです。
  • 次に、新しいネットワークインフラが問題なく動作することを確認するため、1台のユーティリティサーバの移行を実施しました。
  • データセンターの残りの機器は、週末2回にわたって移行を行いました。最初の週末には、月~金曜日にしか使用しない臨床システムの移行を実施しました。この移行が終わった時点で、ネットワークインフラをもう1回テストしました。
  • 2回目の週末に、最終的な移行を実施しました。救急治療で必要となる可能性のあるシステムの移行を優先させ、そのあとで残りのシステムの移行を行いました。

すべて計画やテストに基づいて作業を進めた結果、システムの移行および運用の再開は思ったほど難しくありませんでした。実際のところ、最も時間がかかったのは、施設の整備とラック内の配線作業でした。

新しいアプリケーションの導入

データセンターの新設に踏み切った最大の理由は、新たなアプリケーションをサポートするために、必要なストレージと耐障害性を備えたインフラを構築するためでした。

電子カルテ
中でも最も重要なのが、Electronic Medical Record(EMR;電子カルテ)導入計画です。このプロジェクトでは、できるだけ多くの診療情報を電子データとして取り込み、紙による記録は一切廃止することを目指しています。RCCは内科療法と放射線療法の両方の癌治療を行っているため、1人の患者が両方の治療を受ける場合、紙を使ったシステムでは患者のカルテが2つ作成されることになります。電子カルテシステムを利用すれば、データのアクセス性と透過性が両方とも向上し、より質の高いケアを行うことができます。電子カルテシステムについては現在、移行作業を行っている最中です。

RCCでは、検査室をはじめ、治療現場の随所にワークステーションを設置し、医師が患者に関する情報を確認および更新できるようにしています。たとえば患者の署名が必要な場合など、書面で手続きを行わなければならない場合に備えて、院内には数台のスキャナを設置してあります。これらのスキャナを使って電子化した書類は、データベースに登録され、対象患者の情報と対応付けて管理できるようになっています。

言うまでもなく、この種のシステムで最も重要視されるのはデータの可用性です。RCCの新しいデータセンターには、旧施設と比べてはるかに優れた設備が導入され、医師およびその他の医療スタッフが、いつでもデジタル情報にアクセスできるようになっています。

コーンビームCT(CBCT)
ITインフラを刷新した結果、Varian Medical Systems製のTrilogy Stereotactic Systemをフルに活用できるようになりました。RCCでは、2008年8月から患者の治療にCBCTを採り入れ始めました。コーンビームを使用すると、より精度の高い治療に役立つImage-Guided Radiation Therapy(IGRT;画像誘導放射線治療)が可能になるため、腫瘍部分に正確に放射線を照射して、周囲の健康な組織へのダメージを最小限に抑えることができます。

コーンビームCTスキャナは、使用するたびに大容量の画像ファイルを生成します。当院ではNetAppストレージを利用することで、十分なストレージ容量とパフォーマンスを確保し、これらの画像をオンラインで必要な期間だけ保持できます。このプロジェクトの実現にあたり、臨床アプリケーションのアップグレードやNetAppの導入など、ITに関する複数の計画を実行に移しました。

運用面での強化

新しいデータセンターの設計では、患者の治療に直接影響する新しいアプリケーションに関してだけでなく、IT運用の簡易化と効率化のための変更も行いました。こうした機能強化によってサービスレベルが向上し、臨床アプリケーションの効果をより高めることができます。

ストレージアイランドの統合
新たにクラスタ構成のNetAppストレージを導入して以来、RCCでは機会あるごとにストレージアイランドの統合を行い、専用ストレージや個別バックアップを必要とするアプリケーションサーバを減らすよう取り組んでいます。たとえば、従来の当院の治療計画システムには、ストレージ内蔵の専用ファイルサーバを使用していました。このシステムでは、オンラインで約3カ月分のデータしか保持できませんでした。構成変更により、長期保存用にNetAppストレージを導入したことで、今では1年分のデータをオンラインで保持するという目標を容易に達成することができます。同時に、アプリケーションごとに用意していたテープを廃止し、SANに接続したテープライブラリでデータをバックアップできるようになりました。治療計画用ソフトウェアの開発元は、iSCSIでの実装経験がありませんでしたが、何の問題もなく非常に簡単に実装作業を終えることができました。

当院ではまた、レントゲン画像を保存するために、GE製のPicture Archiving and Communications System(PACS)を使用しています。これは、専用のストレージとテープライブラリを使用するスタンドアロンソリューションです。このソリューションについては、PACSデータをいったんNetAppストレージにスプールしてからテープにバックアップしています。ここでも、個別のライブラリを廃止し、SANに接続したライブラリへバックアップ作業を統合することができました。

サーバ仮想化
RCCでは最近、VMware® ESXサーバ2台を増設し、1台を業務用、もう1台をDR用として可用性の高いシステムを構築しました。業務用のVMwareサーバは、クラスタ構成にしたFAS2050Aの1つのヘッドを経由してストレージに接続されています。もう一方は物理サーバとの接続専用です。すべてのVMwareストレージがDRサイトにミラーリングできるようになっているため、必要に応じて、どちらの場所でも仮想サーバを起動できます。

今のところ、稼働しているVirtual Machine(VM;仮想マシン)は4つ(ウィルス対策ソフトウェアを実行するユーティリティサーバ、テスト用のSQL Server®、ターミナルサーバ、およびWebサーバ)だけです。中期的には、すべての小容量サーバ(小容量のアプリケーションサーバ、Webサーバ、Active Directoryサーバ、DNSサーバ、Windows®管理サーバなど)の仮想化を目標としています。

今後の計画としては、物理サーバの新規購入をできるだけ控え、既存の物理サーバを可用性の高いVMware環境に移行したいと考えています。物理サーバを購入するのは、仮想環境でサポートされないアプリケーションを使用する場合や、製品で必要とされるハードウェア仕様が非常に高く、ESXサーバの多くのリソースが消費されると予想できる場合だけにするつもりです。

医療業界で使用されるアプリケーションの多くは、仮想環境での運用をまだサポートしていません。RCCで使用している臨床治療アプリケーションもその1つです。仮想化した結果、問題が生じても、ベンダー補償は行われません。幸いにも、RCCは小規模な独立系の癌治療施設であるため、運用しているアプリケーションは60~70程度にすぎません(大病院では数百種類のアプリケーションが使用されています)。そのうち、物理サーバに残す必要があるアプリケーションは、五指に満たない程度しかないでしょう。

まとめ

新しいデータセンターとインフラの刷新によって、ストレージ容量、帯域幅、およびサーバの拡張が可能となり、RCCは今後のニーズにより対応しやすい体制になったと言えます。私たちの次の目標の1つは、DR施設をメインデータセンターからさらに離れた場所に移転することです。また、規制への対応の強化として、患者に関する電子データの長期アーカイブにも取り組む必要があります。これらの課題を解決するうえで、NetAppは最適なパートナーであると確信しています。



Julie Cardman Julie Cardman
The Regional Cancer Center、CIO(最高情報責任者)

Julieは1987年以来ずっとIT関連の業務に従事しており、そのうち19年間は医療機関で勤務しています。2007年1月にCIOとして入社してからは、RCCでIT基盤のレベル向上のために主導的役割を果たしています。

Michael Shea Chris McCarthy
The Regional Cancer Center、ネットワークエンジニア

ChrisはIT業界で10年の勤務経験があり、RCCには6年前に入社しました。ストレージ管理、ネットワークインフラ、VMware、およびセキュリティなど、ITインフラ全般を担当しています。


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